低温殺菌乳でモッツァレラを製造する場合に知っておくべき事柄

生乳を低温殺菌してモッツァレラを製造する場合に知っておくべきこととして、生乳の温度履歴とヒステリシスがあります。殺菌する前の生乳と低温殺菌後の牛乳では同じ温度でも殺菌後の牛乳の方がpHが0.1から0.2程度低くなり、そのまま乳酸菌を入れて、20〜30分後にpHを測ると逆に高くなることがあることから、pHメータがおかしいとか信用できないと言う方がいます。そこでこの低温殺菌後のpHの変動について少し解説します。

生乳の低温殺菌(特に63‒75℃帯)では加熱時と冷却時でpHやカルシウム平衡が同じ経路を戻らない現象、つまりpHヒステリシスが発生します。詳しく解説すると、生乳を加熱するとカゼインミセル内のコロイド状リン酸カルシウム( CCP )の一部が溶解し、可溶性カルシウムが増加することでpHが低下すると同時にカゼインミセルが再編成されます。
冷却するとカルシウム平衡が逆方向へ働き、可溶性カルシウムとリン酸が再びカゼインミセルへ戻るはずなのですが即座に戻らず、カゼインミセル内部の再配置が遅くなるほかホエータンパク質の熱変性によりκ-casein複合体が形成されることで同じ温度なのに加熱前と冷却後でpHが違うというヒステリシスが発生するほか、レンネット凝固の遅れなどが発生します。
つまり低温殺菌直後の牛乳では温度履歴とヒステリシスの影響でカルシウムの分布が非平衡状態となり、モッツァレラチーズを作る場合のストレッチ性にも影響を与えることになります。モッツァレラのストレッチ性は、単なる酸性化で得られるものではなく、カードを構成しているカルシウムがカゼインミセルから部分脱灰することにより、可塑状態となることで発生します。

モッツァレラのストレッチについて
生乳モッツァレラではCa交換が速く、コロイド状リン酸カルシウムの移動が柔軟でミセル再編成が自然なので、pH 5.20~5.35くらいで非常に素直に伸びます。しかし、低温殺菌するとカルシウムの移動に遅延が発生するほかホエータンパク質の熱変性によりκ-casein複合体ができカゼインミセルの固定化が起きることから、生乳と同じpH5.2でも脱灰状態が異なりストレッチ性に影響が出ます。したがって低温殺菌乳を使ったモッツァレラのストレッチはpHだけを見ていてもいてもダメで「 pH+ Ca再平衡時間」で見る必要があります。つまりCa平衡を待つことが重要で、ストレッチテストを繰り返し素直に伸びるまで時間をかける必要があります。ストレッチ開始pHはあくまで目安であり、ストレッチテストで状態を確認してからフィラトゥーラに移ることが重要です。

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