カードのカッティングや攪拌については「チーズ製造に関する資料」の中に一般的なことを書いてあります。しかし柔らかいモッツァレラチーズの製造実験をする中で撹拌が重要な役割を担っていることが改めてわかってきたことから、攪拌について再度資料の収集・調査を行い、その結果をまとめましたので「チーズ製造に関する資料」に取り込む前にブログに書くことにしました。
1.モッツァレラ製造において凝乳カット後の攪拌がもたらす効果
カット後の攪拌は主にカードの水分含有量 、硬度と酸度変化、粒子サイズと融合を制御しています。
(A) 水分含有量
攪拌量増加はホエー排出量を増加させカードの乾燥 ( 水分含有量の低下 ) を促進します。反対に攪拌量減少は水分保持量の低下を防ぎ、カードの柔らかさを保持します。
(B) カードの水分量と酸度変化
乾燥したカードは残留乳糖が少ないため、酸性化が遅延します。反対に湿潤なカードは乳糖を多く保持するため、酸性化が持続します。
モッツァレラでは伸展性がpH 5.2–5.3付近でしか発生しないことから、このpHまで酸性化が適時に進むことが重要です。
(C) カードの粒子サイズと融合
攪拌は伸展工程におけるカード粒子の融合しやすさに影響を与えています。
強い攪拌を長時間続けると伸展時のカード融合が遅くなります(繊維質食感)。反対に弱い攪拌を短時間行うとカードは速やかに融合します(柔らかくしなやかな食感)。
2.主な機能の連動
攪拌時間が長くなると水分含有量が低下し、乳糖量が減少することで酸性化速度が遅くなる。結果として凝乳が硬くなりpH低下が遅延することで、伸展時の水分量が低減することになる。
対照的に攪拌時間を短くすると水分量が保持されることで乳糖量が保持され酸性化が適時に進むこととなる。結果として凝乳は柔らかく適時なpH低下により伸展時の適切な水分量が得られる。
3.撹拌時に注意すること。
・切断時のカードが柔らかいものは穏やかな攪拌が必要。
・細かく切断したカードは脱水が促進されることから攪拌時間を短縮する。
・高温での過剰な攪拌は脂肪を放出し収量の減少に繋がる。
4.攪拌に起因する可能性がある問題と原因
問題 原因
チーズが硬すぎる 攪拌時間が長すぎる/温度が高すぎる
チーズが弱くベタつく 攪拌不足/時間が短すぎる
急激な酸性化 カードが湿りすぎ(早期に凝集)
伸びが悪い/破れる 水分不足+ストレッチ時のpHが高すぎる
カードカット後の攪拌による水分管理について
1.カードの切断サイズとホエーの排出
カードが切断されると、その切断面からホエーが排出される。ホエーの排出量は切断されたカードの表面積に比例し、攪拌により排出が促進される。
乳製品プロセス工学においてホエーの分離に関して以下の式が知られています。
分離速度 ∝ 表面積 × 攪拌強度 × 温度
この式は、ホエーが効率的に排出される速度を表し、カードの水分含有量がこれらの要素、特に攪拌強度を操作することで制御できることを示しています。
2.攪拌による具体的な変化
・攪拌はカードに密度の高い皮のような殻を形成し、その殻が内部からホエーを押し出します。
・攪拌により均一な加熱が可能になることで熱がカゼインの収縮を促進しホエー排出を促進する( ホエー損失増加=水分量低下 )。
・カッティング後の撹拌が激しいほど、カード同士の衝突や物理的ストレスによりホエーの分離が促進される。すなわち攪拌が少ないとカード内にホエーが閉じ込められ、攪拌が多いとホエーがカード外へ排出される。
3.定量的な関係
オランダ産セミハードチーズ製造の研究によれば、概ね以下の関係があるとのことです。
・穏やかな攪拌時間 +10 分ごと ≈ 水分 –0.3~–0.7%
・攪拌温度 +1 ℃ごと ≈ 水分 –0.2~–0.5%
・カットサイズを1.5 cm から 1.0 cm へ縮小すると ≈ 水分 –2~–4%
( 値は乳成分に依存し山羊乳や水牛乳は異なる )
水分含有量はゴーダチーズでは若熟成ゴーダが約42~45%、熟成ゴーダが約36~39%であり、目標水分量に調整するために製造現場では攪拌スケジュールを調整している。
4.攪拌中の典型的な水分損失傾向 ( セミハードチーズ )
切断後の攪拌中に10分毎にカード水分を測定した研究では
・小さなカード(約6 mm³)では、水分損失は対数曲線に従い、初期の急速なホエイ排出後、時間経過とともに減速。
・より大きなカード(12–18 mm³)では、水分損失は時間とともにより直線的。
・牛乳中のタンパク質濃度が高いほど同じ攪拌時間での水分損失が速い。
実験的観察に基づいた水分量と時間の関係は
カット後時間(分) → カード水分率(%)
5 高い (~65–70%)
15 中程度 (~60–64%)
30 低い (~56–60%)
45 やや低め(約53–57%)
60 ほぼ横ばい(約50–55%)
水分減少は初期に急激で、その後分離液排出速度が鈍化すると緩やかになる。
5.水分計がない場合の有効な水分量確認指標
・浮遊テスト
お玉でカードを掬いホエー中で高く浮くと乾燥度が高い、 低く浮く或いは沈む場合は湿潤度が高い。
・絞りテスト
カードを手で掬って握ってみる。指の間でまとまり、弾力性があればゴーダ適性。
崩れやすいければ乾燥過多、ペースト状であれば攪拌不足であり水分過多である。

